2017年1月21日土曜日

理解するための語彙力と解像度を上げる


思考を深める、とよく言われますが、考えていることをどのような言葉を使って表現するのかということは常に大きな問題です。言語と思考の関係をどのように考えていけば、人に伝わる言葉を生み出せるのかという、表現者にとってたえず大切な問題に正面から切り込んだ本が、梅田悟司さんの『言葉にできるは武器になる。』(日本経済新聞出版社、20168月)です。
  梅田さんは繰り返し「自分の内なる言葉」を持つこと、それを掘り下げていくことが、表現する人として忘れてはならない大切なことだと言っています。

結論から言えば、内なる言葉を磨く唯一の方法は、自分が今、内なる言葉を発しながら考えていることを強く意識した上で、頭に浮かんだ言葉を書き出し、書き出された言葉を軸にしながら、幅と奥行きを持たせていくことに尽きる。64ページ)

コピーライターらしく、主張を簡潔に示した言葉で各節が締めくくられています。「とにかく書き出す。/頭が空になると、/考える余裕が/生まれる。」(91ページ)とか「自分の/可能性を/狭めているのは、/いつだって/自分である。」(134ページ)というぐあいに。何か、私自身に宛てられているような気にさせられる本です。文章を書くことに少しでも苦労したことのある人であれば、その人の内側の苦労を言い当てられたような思いを抱く本だとも言えます。
  『理解するってどういうこと?』の「資料G」には「読書感想文に代わる方法」として「書くことで考えたことを共有する方法」「描くことで考えたことを共有する方法」「話し合うことで考えたことを共有する方法」「演じることで考えたことを共有する方法」があげられています。読みっぱなしにせず、読むことが好きになって、読む力がついていくための方法があげられているのですが、梅田さんの方はそのときに読者の「内なる言葉」を「外」に出す知恵をたくさん示しています。
  感想を話し合うにしても、感想文を書くにしても、その「自分の内なる言葉」を言葉にできるかどうかが鍵となります。「自分の内なる言葉」を豊かにしていくということはもちろん大切なことです。これがなければ先に進むことができません。
  一つ一つの言葉がいちいち心に響く本なのですが、それはたとえば次のような考えでつらぬかれているからなのでしょう。

大切なのは、内なる言葉の存在をはっきりと認識し、内なる言葉の語彙力と解像度を上げることである。その上で、外に向かう言葉を鍛える方法を知ることにこそ意味がある。
  話すべき内容である自分の思いがあるからこそ、言葉は人の心に響いたり、人の気持ちを動かすことができるようになる。どう言うか、どう書くかではなく、自分の気持ちを把握した上で、自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか、でなければならない。145ページ)

「自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか」? そのために「言葉のプロが実践する、もう1歩先」とはどのようなものなのか。その見出しだけを引用させていただきます。
   たった1人に伝わればいい〈ターゲッティング〉
   常套句を排除する〈自分の言葉を豊かにする〉
   一文字でも減らす〈先鋭化〉
   きちんと書いて口にする〈リズムの重要性〉
   動詞にこだわる〈文章に躍動感を持たせる〉
   新しい文脈をつくる〈意味の発明〉
   似て非なる言葉を区別する〈意味の解像度を上げる〉

それぞれがどういうことなのかということについては、本書(204ページ~252ページ)をお読みください。たとえば、①では「平均的」な読者というものは存在しないという言葉に納得し、たった一人に向けて書きながらも、そのことを対象化していくことが重要だという言葉に納得しました。⑤の「動詞にこだわる」で彼が言っているのは、「体験の幅」を広げることで、「内なる言葉」を伝えるための「動詞の幅」が広がる、ということです。また⑦では、「意味の解像度を上げる」ために、たとえば「解消と解決」「性質と本質」等の「似て非なる言葉を区別する」ことが必要だ、とも書かれています。
  これらは、コピーライターという言葉のプロだからこそ気づくことのできることなのかもしれませんが、本書に示されている〈方法〉を使ってみることで、本を読みながらたくさんの「自分の内なる言葉」をたくわえることができるようになり、それらを人に伝えられるようになるのではないでしょうか。それは、日常の諸事をより鮮明に「わかる」ようにするための処方箋でもあります。

 

2017年1月13日金曜日

自分が読んでよかったと思える本を紹介し合えるクラスづくり


子どもたちに学期に終わりにアンケートをとると、いつも一番人気はクラスメイトによる本の紹介です。そのコツを、7年生の声を中心に紹介しながら、お教えします。

10 計画が大事
 「みんなの前に立つ前に、何を話したらいいか、知っていないといけない」「言いたいことを書き出しておくと助けになる(でも、棒読みはダメ!)」本のタイトル、著者、ジャンル、簡潔な要約、そして自分の感想は、不可欠の要素。でも、以下を読んでいただけると、他にもあります。
9 最後までしっかり話す
 「最後で台無しにしてしまっては、自分が紹介した本を読みたくなる人はいません」
8 しっかり聞いている人の目を見て
 「いい本の紹介のポイントは、目を見て話すこと。誰の目を見ていなかったり、用意した原稿を読んだりしていては、こちらの熱意が伝わらない」
7 短く、楽しんでもらえる内容で
 「30秒じゃ身近すぎるし、5分も話していたら、飽きちゃう。2~3分がいいところ。その中に伝えたいことを盛り込む。それだけじゃなくて、楽しんでもらえるようにする」
6 珍しい本を紹介する
 「誰もが知っている本を紹介しても、喜ばれない」 ~ でも、たまにはそういう本でも、違う視点に気づいてもらいたいような時は例外です。
5 本の一部を読むのはインパクトがある
 「本を代表するような文章を短く読むことは、その本がどんな本で、どういうふうに書かれているのかを生に伝えるいい方法」
4 言い過ぎないで、もったいぶって
 「?マークが聞いている人たちに残った方が、本を手にとってもらえる可能性は高まる」
3 プレゼンテーション
 「聞いている人たちに受け入れられる形で表情豊かに話す」 ~ 主役は、聞く人たちで、紹介しているものではないことをわきまえる!!
2 一冊だけでなくて、本のつながりを強調する形で、複数の本を紹介する
 読み手たちは常にいい本を探しているので、関連する複数の本を紹介するとありがたがられる!
1 本のおもしろさが伝わるように
 「その本への紹介者の思いというか、こだわりというか、本の面白さが聞き手に伝わることが、その本を読んでもらうための最大のポイント」

以上を参考にしながら、クラスの子たちが相互に本を紹介し合える時間をひんぱんに作ってください。★それが、子どもたちが読みたくなる最も効果的な動機づけになるはずです。教師よりも、教科書よりも、何よりも。
英語ですが、このクラスの子どもたちの本の紹介を張り出したものを紹介します。
https://padlet.com/katsok/ncte

★ ここで紹介されたコツは、フォーマルな紹介の仕方ですが、これらの要素の多くはインフォーマルに紹介し合う際にも当てはまるものがほとんどだと思います。その意味では、教師がしっかりモデルを示すところから繰り返し練習することで、スキルとして紹介の仕方を身につけると、ほかのプレゼンをするときに応用できるまでになります。これは、とても大切なスキルではないでしょうか?

2017年1月6日金曜日

RW関連の本の中で出てきた児童書よりのお薦め

 RW関係の文献を読む中で、様々な場面で紹介されている児童書や絵本を読むことが増え、お気に入りの作家も増えました。

 今日はその中から、小学校の中・高学年ぐらいからの本で、邦訳が出ているものの中から、私のお薦めを何冊か紹介します。皆様のご存じの本が多いかもしれません。
 
★ ルイス・サッカー

『歩く』 

➡ 有名な『穴』のスピンオフ作品ですが、私は『穴』よりずっと引き込まれました。私は、ルイス・サッカーは少し不器用な少年を描くのがとても上手だと思います。『歩く』では、主人公にすっかり応援モードになってしまい、その不器用さにちょっとハラハラしながら読みました。ルイス・サッカーの作品の中で、多分、一番好きな作品です。

 ★ キャサリン・パターソン

➡ 『テラビシアにかける橋』で有名な作家ですが、私は 『ガラスの家族』がお気に入りです。『リーディング・ワークショップ』190ページにも登場している本で、不貞腐れた感じの主人公はなかなか魅力的ですし、終わりかたに主人公の成長を感じます。

★ アヴィ

『星条旗を永遠なれ』

➡ ドキュメンタリータッチの、ありえない?展開の本、でも、ありえるかも、と思わせてしまうところが見事だと思いました。この本の終わりかたもなんとも言えません。

 アヴィは幅広い著作があり、その幅広さも魅力の作家です。翻訳されている本が少ないですが、「ざらっ」として感じが残る話もいくつか書いていて、個人的にはそういう感じも好きです。

★ シンシア・ライラント

 シンシア・ライラントと言えば、ニューベリー賞を受賞した『メイおばちゃんの庭』が有名です。『メイおばちゃんの庭』は愛するおばちゃんの死別に途方にくれる人たちを描き、死というテーマで読むときには、その1冊としてぜひ読みたいです。好き嫌いが分かれるかもしれませんが、親子関係を描いた『優しさ』も、私は興味深く読みました。

★シャロン・クリーチ

 シャロン・クリーチはニューベリー賞を受賞した『めぐりめぐる月』が有名です。彼女の本は、どこか不思議な雰囲気があったり、複数の物語が同時進行しているような印象を受ける本もいくつかあります。

  その中では、比較的不思議さが少なめ(?)の『ルビーの谷』、大人たちに愛されずに育った子どもたちの話です。

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★ ウイルソン・ロールズの『ダンとアン』。少年と犬2匹の話。『リーディング・ワークショップ』161ページに登場します。 ひたむきな感じが好きです。

★ ジェリー・スピネッリの『クレージー・マギーの伝説』。これもリーディング・ワークショップ194ページに登場します。これはかなり昔に読んだので記憶があいまいですが、なかなかの名作だった記憶があります。

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 ルイス・サッカーからシャロン・クリーチまでの、最初の5名は、いつの間にか私のお気に入り作家になり、他の本もたくさん読みました。

 私は英語を教えているので、いつも学習者が英語で読める本ということが頭のどこかにあります。

 上の本ではシンシア・ライラントの『優しさ』だけ日本語で読みましたが、上の5名は比較的、英語も読みやすいと思いますので、英語の好きな方はぜひどうぞ。まだ邦訳されていない本でいい作品もけっこうあります。

2016年12月30日金曜日

本を読む子どもの様子


 今回のRWWW便りは、RWを実践している小学校の先生二人が、(1)教室から(2)自分の子どもから、本を読む子どもの様子を伝えてくれています。
 
(1)は小学校の教室からロアルド・ダールに夢中になったある子どもの姿です。

(2)はある先生の家庭から、本が大好きなものの、選書や読み方で成長できる余地も感じられる子どもの姿です。(2)は自分の子どもについて書かれていることもあり、「継続的な観察」の価値がよくわかります。以下の文の中にでてくる「観察を大切にすることで、読書へのお節介にストップをかけることもできます」は、なるほど、と思います。
 
【その1 教室から】
 
ロアルド・ダールの『おばけ桃が行く』(評論社)を読み終えた4年生の男の子。

 「おもしろかった!」と興奮気味に話していました。次に手にした本は『魔法のゆび』。なんと、読みはじめたその日のうちに読み終えてしまいました。

 その後、すっかりダールの作品にはまってしまい、教室の図書コーナーにある『マチルダは小さな大天才』、『チョコレート工場の秘密』『オ・ヤサシ巨人BFG』を次々に読み終えると、ついには「この人はおもしろい本しか書かない!」という言葉も飛び出しました。すっかりダールの作品に魅了されてしまったようです。

 教室にはないダールの作品が読みたくなり、家の人に頼んで『ガラスの大エレベーター』『ぼくのつくった魔法のくすり』などを買ってもらっていました。

 それらもすぐに読み終えて、次に読みたい本のこと考えていました。全てのダール作品を読んでしまいそうな勢いです。

 読者をこんなに夢中にさせてしまうロアルド・ダールの作品のすごさを感じました。

【その2 家庭から】
 
年長になった娘の読書熱がいよいよ高まっています。

『読書家の時間』では、カンファランスを行う前によく観察することの大切さが書かれていますが、教室だと観察するよりもすぐに声をかけてしまうことが多く、その大切さをうまく感じることができませんでした。けれど、自分の娘の読書方法を長い間観察していると、 娘の読書の癖がよく分かります。
 
観察はその場ではよく分からなくても、観察を続けていくことが大切なのだとわかりました。観察を大切にすることで、読書へのお節介にストップをかけることもできます。

  まず、娘の読書を観察することですぐに分かることは、読むのがとても速いことです。大人の私が横について、ページをめくったときから同時に黙読で読み始めても、娘と同時に終わるほど。新しいマジック・ツリーハウスを渡しても、ペラペラとめくって、すぐに読み終えてしまいます。集中力があまりないせいか、のんびり読むということはあまりなく 、駆け抜けるように読み、飽きたら読むのを止めます。理解の程度はどの程度なのか質問をしてみると、大体の内容はつかんでいることが分かりますが、何かこだわって読むということはありません。
 
音読させると、ゆっくり読むことができず、文字を飛ばしたり、語尾を勝手にアレンジして読んだりしてしまいます。私は先生のように接したくないので、「正しく音読してごらん」といったようなことは言わないようにしていますが、娘にとって今度入学する学校の音読は、ハードルの高いものになるかもしれません。

次に観察で分かることは、本をほとんど選んでいないということです。図書館に行くと、目についた本をすぐに読み始めてしまいます。表紙が目立つように置かれている本や、背表紙のタイトルが気になる本など、すぐに手にとって読み始めます。巻が抜けてしまっても大して気に留めていない様子です。

書店では、1冊買ってあげるよと言っても、選ぶ感じはなく、目についたものを「じゃあこれ!」と言って決めてしまいます。「これは薄くてすぐ読んじゃうからもっと選んだ方がいいよ」というと、「じゃあ今読んじゃう」と言って、買ってもいない本を読み終えようとします。なんだか、本は思いを込めて選ぶものではなく、偶然に出会うものと考えているのかもしれません。

目的をもって本を読むこともおもしろいと伝えたくて、図書館司書の方に本を教えてもらうということにチャレンジしています。

例えば、「縄跳びの本を読みたいです」と聞くことができたことがあります。次は、本の予約ができるということを教えていきたいと思います。

最後に、読むことに夢中になっているということです。家で静かになっているときは、大体、本を読んでいるときです。ベッドの上に本を撒き散らかして、黙々と読んでいます。ベッドにいないときは、押し入れの中の秘密基地に人形を持ち込んで本を読んでいます。

家には、自分の母親から譲り受けたたくさんの「こどものとも」「かがくのとも」があります。それを、月ごとにブックスタンドに入れて、運べるようになっているのですが、その箱の中の本を次々と読んでしまいます。もう、自分が生まれる前のものもたくさんあるので、そうとうに古いですが、それでも内容がすばらしいので、大人も読み聞かせをしながら愛読をしています。

図書館に行くと、子どもの本はもうどこに何があるのかは全て分かっていて、いつもの椅子に座り、目についた本を読み始めます。もう、親のことには気にせずに、自由に本の世界を楽しんでいます。

本を読んでいるところをみると、ついつい指図をしたり、親のおすすめの本を紹介したりしてしまいますが、結局自分が見つけた本の方がよく読みます。読んでほしい本は、さりげなく近くに置いておいたり、一緒に読もうと誘ったりします。

声をかけすぎず観察することで、小うるさくならずにいられたり、本当に大切な本を薦められたりできます。親の持ってきた本に、素直に喜んで読むばかりではありません。じっくり観察して、大切な本を素敵に紹介していきたいものです。

 ちなまに、読書家の娘は、今落語の本にはまっています。おすすめは?と聞いたら、「そばせい」だそうです。「まんじゅうこわい」は全部暗記をして、保育園の劇で発表しました。クリスマスには、「だれも知らないサンタの秘密」がお気に入りでした。
 

2016年12月23日金曜日

一人読み



そもそも、「一人読み」は日本の読解教育ではテーマにすらなっていないのではないでしょうか? 国語の時間中の「一人読み=ひたすら読むこと」の必要性に、日本の国語関連の本で言及しているのはあるでしょうか? (RWでは、「ひたすら読む」が使われます。)
朝読(や図書教育に)も含めて、「一人読み=ひたすら読む」を計画し、モニターするという発想はあるでしょうか?
これこそが読み手として育てる一番いい方法なのに。 
日本の読解教育というのは、「読むことはせずに、読むことを教える方法」というきわめておかしな方法を取り続けています。
何のためでしょうか? 
テストのため!?
そうなると、日本の図書(読書)教育もあやしくなりますね。
いったい、日本の「図書/読書教育」は、何のために存在しているのでしょうか?

83 一人読みとあわせて、モデルで示す、(主には解釈/理解の方法を)教える★、ガイドする★★、モニターする、評価する、計画するがバランスよく(しかも、一斉ではなく個々のニーズに合わせて)行われないと自立した読み手は育てられない! ~ とてもまっとうなことがここに書かれているのですが、残念ながら、これらが日本の読解教育で行われているとは思えません。どうりで子どもたちの読む力がつかない!?

84 ただ読ませれば、いいというものではない。難しすぎる本や優しすぎる本を読んでいては、マイナスの効果のほうが大きいぐらい! そうでなくても、時間を無駄に使っていることに・・・朝読でしていることは、まさにここで書かれていること?
85 朝読や図書の時間的な読み方と一人読み(RWのひたすら読む時間)の比較の表★★★ (なお、ここでは85ページに紹介されているのより網羅的な表1を紹介します。)

88 「ひたすら読む」の要素をしっかり押さえることの大切さ ~ 表2のチェックリスト

   この中で朝読が押さえているのはいくつ?? これによって、読むことにはほとんど寄与していないことが明らかに! 何のためにしているのか? 静かな=落ち着く時間を持つため。

91 特に年齢が低い場合に効果的なパートナーとの読み(二人読み)

94~97 自分(たち)にぴったりあった本の選び方
    (これについては、http://wwletter.blogspot.jp/2016/10/blog-post_28.html を参照)


★ この方法については、『「読む力」はこうしてつける』を参照ください。
★★ ガイド読みについては、『読書家の時間』の第6章を参照ください。
★★★ この表から何が言えると思いますか?
    できるだけ早く朝読や図書の時間からRWに移行することです!

    なお、従来の国語(読解)の授業とRWを比較した表は、『「読む力」はこうしてつける』の53ページに掲載されています。


2016年12月17日土曜日

深く学ぶために必要なこと


深く学ぶために必要なこと

 

 早川書房と聞くと、SF小説やミステリー小説を連想する人も多いと思います。私もその一人です。でも、そうではない本もたくさん出版していて、面白い本が多い。チップ・ハース&ダン・ハースの『決定力!:正しく選択するための4つのステップ』(千葉敏生訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2016年)もその一冊です。
この本の副題になっている「正しく選択するための4つのステップ」とはどのようなものでしょう。著者は4つのステップの頭文字を使ってそれを「WRAP」と呼んでいます。訳者の千葉さんが本書解説の406ページに示しているものを引用します。

 (W)選択肢を広げる(Widen Your Opinion)
 (R)仮説の現実性を確かめる(Reality-Test Your Assumption)
 (A)決断の前に距離を置く(Attain Distance Before Deciding
 (P)誤りに備える(Prepare To Be Wrong

 『理解するってどういうこと?』には、七つの「優れた読み手が使う理解するための方法」が何度も出てきます。『決定力!』の「WRAP」は、「大切なところを見極める」という「理解するための方法」を使うときの手がかりになります。「大切なところを見極める」ことができれば、その本や文章について考えるための立脚点ができます。だからこそ「理解する」ためには大事なのですが、「大切なところを見極める」には何をどうすればいいのか。
 たとえば、『決定力!』には次のようなことが書かれています。

・「夫は自分勝手だと思うけど、私を気遣ってくれている場面も記録しておくべきかもしれない」「同僚は失礼で無愛想に見えるけど、本当は無愛想なのではなくて、私に時間を取らせまいと気を遣ってくれているのかも?(逆に、私が雑談しようとして相手の時間を奪っているのかも?)」。この「逆を考える」というシンプルな手法で、厄介な認知のバイアスの多くを抑えられることが数々の研究で実証されている。(167ページ)

・選択肢を評価するとき、私たちは無意識のうちに内部の視点に立つ。スポットライトの当たっている情報を検討し、そこから第一感を導き出してしまう。(中略)ところが、これまで見てきたように、ズームアウトとズームインの二つを使えば、このバイアスを修正することができる。
 ズームアウトとは、外部の視点に立ち、自分と似た選択をした人々の経験から教訓を学び取ることだ。ズームインとは、状況をクローズアップし、意思決定の参考になる“色合い”をとらえることだ。どちらの戦略も有効であり、会議室でうだうだと話をしているだけではめったに得られない洞察をもたらしてくれる。(201ページ)

・一時的な感情を重視しすぎるバイアスは、逆の効果をもたらすこともある。道路で目の前に割り込んできた運転手にカッとなるように、私たちは一時的な感情のせいで我を失い、慌てて行動しすぎてしまうこともある。(中略)しかし、本書でずっと見てきたように、バイアスは必然ではない。簡単な心の切り替えを行うだけで、感情と距離を置くことができる。そのためには、時間軸の切り替えや視点の切り替え(「親友に何とアドバイスするか?」)が効果的だ。時間軸や視点を切り替えることで、状況の輪郭をより鮮明にとらえ、難しい意思決定に直面したときでも、賢く大胆な決断ができるようになるからだ。(258259ページ)

いずれも、選択という行為につきものの「バイアス」(偏り)をどのようにすれば捉え直すことができるのかということに触れたものです。本や文章の「大切なところ」を決めるために何をどのように吟味していけばよいのかということを考えるヒントになるのではないでしょうか。
 自分の選んだ「大切なところ」について、「逆を考え」たり、「ズームアウト」「ズームイン」したり、「切り替え」を行ったりすることによって、「大切なところ」を選んだ自分の選び方を再考したり、読んでいる本や文章を新たな目で見直し、捉え直していくことができます。もちろん、『決定力!』は意思決定についての本であって、文章理解についての本ではありません。しかし、「理解するための方法」を使いながら本や文章から深く学ぶためには何が必要かということを教えてくれるのです。「深い学び」の「深い」の意味も教えてくれます。

2016年12月9日金曜日

「他の人の何気ない一言から、魅力を再認識した絵本」

 ここしばらく1冊の絵本ーー『おとうさんのちず』(ユリ・シュルヴィッツ作)
ーーに魅了されました。初めて読んだときは、「まあ、いいか」みたいな印象だ
ったので、そのまま忘れてしまう可能性の高かった本です。
 

 ところが、知人は同じ本について、 「一度読んだときに、あ、これは絶対授
業に使いたいと思った」と、ブログに書いていました。

 「絵本に詳しい、その知人が何か強く感じた絵本であれば、私が見落としてい
る何かがあるのでは?」と思い、読み直しました。結果として、知人の一言が
きっかけで、どんどんその豊かな世界に入り込んでいます。

 私は最初、インターネットの読み聞かせサイト★で英語で読みましたが、知人
とのやりとりのあと、読み聞かせを再度見て、そのあとは絵本も注文しました。

 本が届いたことで、この本が自叙伝的なものであることを知りました。

 また知人から、著者のユリ・シュルヴィッツがこの本について語っているサイ
ト★★も教えてもらいました。

  著者が語っているのは3分半ぐらい(英語)ですが、この語りがまたいいのです。

最初のほうで、小さな島を見て、そのあと、海の中からその島を見ると、水の中のある部分がとても大きい、海の上に見えているのは、その小さな一部分に過ぎない。絵本はその見えている小さな島で、いい絵本というのは、その下の見えない部分がある、というような話です。

 「大人が絵本を読む(子どもも同じかもしれません)価値を言語化してくれてい
る」ように感じました。それで、そういうミニ・レッスンができそう、とも思いま
した。
 

 後半では 食物の必要な現実の世界とイマジネーションの世界の両方があること、
両方とも必要なことを話しています。

 知人とそんな情報交換をしている間に、本の世界にどんどん入り込めます。知
人は、「一つの絵本を深く読むことで、その作家の手法とか思想とかにふれて、
その上で他の著作を読むと、過去には気づかなかった読み方ができる。読み手が
その本の意味に出会い、発見していくというのは、こういうことを言うのだなと
感じます」と書いていましたが、まさに同感です。

  また上述のように、私は「大人が絵本を読む(子どもも同じかもしれません)
価値」というミニ・レッスン案が浮かびましたが、知人の方は、あっさりした
描写の場面と、パンがない場面の詳しい描写等の使い分けから、ライティングに
もメンターテキストとして使えると、考え始めています。                                                       (さらにこの絵本を考えていて、「思考を整理するための図」を書いてみる、というミニ・レッスンにも使えると思いました。現実世界と地図の世界を図にするときに、どう表現するかはいろいろなパターンがあるからです。➡ いい絵本は、ストーリーが分かった後は、いろいろなミニ・レッスンに使えそうです。)              

 何気ない一言がなければ、「まあいいか」で、忘れてしまったであろう絵本で
すが、本について語ることがきっかけで、より深く広く読めることを実感しました。

 そういえば、ジャネル・キャノンの『ともだち、なんだもん!--コウモリの
ステラルーナの話』という絵本も、「この本、アイ・アム・サムという映画の中
で使われていた」という学習者の一言で、 「あ、そうなんだ」と思った本です。

 結果として、 アイ・アム・サムも見て、またジャネル・キャノンの他の本も
数冊読みました。

  どちらの絵本についての「一言」も、「私の読みを深めさせてあげよう」と
思って言われた一言ではありません。でも、そのおかげで私が得たものは大きか
ったです。

 そんな一言が、自分の生活の中で、また教室の中でたくさんあるといいなと思
います。

*****

★ 映画スターが読み聞かせ、絵本も動画仕立てになっているサイトです。英語の字幕も出せます。

http://www.storylineonline.net/how-i-learned-geography/

★★ エリック・カール・ミュージアムで語っているようです。

https://www.youtube.com/watch?v=wEMc_z45n5w