2014年4月25日金曜日

『読書家の時間』の裏話シリーズ その1



 「読書家の時間」の実践を経て、本という成果物に到る過程で表には出ない秘話を紹介します。

 絵本『綱渡りの男』(モーディカイ・ガーシュティン作、川本三郎訳、小峰書房)という本をご存知ですか?
 いまはなき★ニューヨークのマンハッタンにそびえたっていた世界貿易センターの2棟のビル(高さは約400メートル。間は約40メートル)の屋上に鋼鉄の綱を結びつけ、綱渡りをしてしまったフィリップ・プティについて書いた絵本です。
 フィリップはまったく躊躇しませんでしたが、『読書家の時間』の執筆者の中には躊躇した人もいました。ビルから綱に足を踏み出すべきかどうか。それは、いまも主流の読解教育のアプローチとはあまりにも違いますから(第10章を参照)。一方で、フィリップと同じように何の躊躇もなく、踏み出した人もいました(第9章を参照)。

 両方のタイプの教師がいましたが、大切なことは、綱渡りはシンドイけれども、楽しんだ、ということです。マスターカードの宣伝ではありませんが、「プライスレス(価格はつけられない)」体験だったと言った人もいます。要するに、読書家の時間の実践は、これまでの教員生活の中で、もっとも価値ある体験だったというわけです。こういう実践=学び=研修ができれば、授業も学校も見違えるほどよくなっていくことでしょう。

 綱渡りは、実際にそれをしているところを見てもらえば、それですみますが、読書家の時間はそういうわけにはいきません。(いまは、Youtubeなどの映像媒体の可能性もあるのかもしれませんが、一方でプライバシーもうるさくなっているので、そう簡単にはいきません!) 従って、書くしかありません。
 一人で書くのは大変ですが、仲間がいることで、書き上げられた部分がとてつもなく大きいです。一人ではなえそうになってしまうのを、他のメンバーの励ましやフィードバックで前に進むことができました。

 そして、このプロジェクトでは、チーム・メンバーの共同執筆という形態をとりましたが、伝統的な分担執筆という形はとりません。前者は、それぞれの原稿をメンバー全員が異論が出ないまで読み込みます(つまり、相互にフィードバックしあう、ということ)。それに対して後者は、学校の先生たちがまとめた研究紀要や報告書の類であろうと、大学の先生たちが書いた本であろうと、分担執筆の形態をとったもので読める内容のものは極めて稀であることを知っているからです。分担執筆は、基本的に実績を残す/作ることが目的で、読ませる部分は二の次、三の次です。また、分担執筆の多くは、執筆者同士の学び合いもありません。互いが、領分を侵さないという暗黙了解が成り立っている形式ですから。プロセスで学ぶことを目的にしている私たちが、そういう選択をとることはできません。(メンバーの中には、2人ほど英文のリーディング・ワークショップとライティング・ワークショップをはじめ、教育分野の本に広く精通している者も含まれており、最近10年以上の傾向として、共同執筆の形態で書かれた本の方が個人執筆で書かれたものよりも、読み応えがはるかにあることを知っていたこともあります。) 綱渡りも、一人でするよりも、みんなで一緒にした方がはるかに楽しい、ということになりましょうか?

 以下の目次の変遷を見ると、メンバー間のやり取りを通じて、ドンドン変化したことがわかります。

 2010年9月4日時点の目次案: ~ まだ項目を出しただけ!

*はじめに
RW(リーディング・ワークショップ)とは? 読書のサイクル(枠組み)
保護者との連携
カンファランス
子どもの変容
教師の変容
ミニ・レッスン
本のリスト
本の確保の仕方
年間計画
+新学期のスタートの仕方(選書など)
掲示物・写真
読書ノート、メモ等
評価
共有
ソフトのクラスづくり
ミニ・レッスン→カンファランス→共有  の子ども
読みのバリエーション(ガイド読み、ペア読書、ブッククラブ・ブックプロジェクトなど)
QA


2011年1月8日時点の目次案:  執筆の主担当の確認。大分、本の骨格が!

はじめに
RWとは?
教師の変容
子どもの変容

ミニ・レッスン
カンファランス ~ ひたすら読む
共有

ソフトとハードのクラスづくり
年間計画
評価
本のリスト

◆読みのバリエーションは、
ガイド読み →カンファランスに移動
ペア読書  →共有に移動
ブッククラブ → 共有に移動


2012年7月1日時点の目次案: ~ さらに、本の形に近づく!!

もくじ 
まえがき
パート1 RWで子どもも教師もこう変わる
1章 RWとは?
第2章       子どもも、教師もこんなに変わりました → 第2章 子どもの変容
                         第3章 教師の変容
パート2 RWの主な要素
第1章       こうすればできる「リーディングワークショップ」
第2章   ミニ・レッスン
第3章   カンファランス
第4章   共有の時間
第5章   ガイド読み
第6章   ペア読書・ブッククラブ ⇒ 本仲間 → 読み仲間
パート3 こうすればできるRW
第1章 読書環境を作ってみましょう (ハード面とソフト面)
第2章       年間計画を作ってみましょう
第3章       RWにおける評価とは

資料
 A おすすめ本のリスト
 B Q&Aよくある質問、よく起こる問題とその解決)
C  ワークシート


  http://wwletter.blogspot.jp/2014/04/blog-post_16.html


★今はない理由は、2001年9月11日のテロにより、2機の飛行機がそれぞれのビルに突っ込んで、倒れてしまい、多くの人の命を奪いました。あんな悲惨なことは映画やテレビの世界でしか起こるはずがないと思っていたことが、実際に起こってしまったのです。そして、悲劇はそれで終わらずに、アメリカ(というか当時の大統領のブッシュ氏)は往復措置として、イラクとアフガニスタンで長期にわたる「テロとの戦争」を起こし、9.11の死者をはるかに上回る人の命を奪いました。(現在も進行中!)
 なお、フィリップのすごいところは、「あの建物の頂上で綱渡りができたらいいだろうなー」と思って、それを早速実行に移してしまったことです。すばらしい遊び心!! ぜひ、見習いたいものです。彼が、そんなことができた理由については、詳しく絵本で紹介されています。

2014年4月16日水曜日

日本での実践を始めてまとめた本『読書家の時間』いよいよ出版!


予定よりも大分遅れましたが、その分、内容はいいです。
「どうやって日本の教室で、リーディング・ワークショップを実施するの?」という質問に、具体的に答えています。
サブタイトルは、「自立した読み手を育てる教え方・学び方(実践編)」。

はじめに
プロローグ「読書家の時間」で学ぶ教室から
第1章       最初の10時間
第2章       読書環境をつくろう
     読書家の時間の1時間の流れ
第3章       ミニ・レッスン
第4章       カンファランス 
第5章       共有の時間
第6章       ガイド読み
第7章       友達同士で読む
第8章       評価
第9章 年間計画
第10章 教師の変容
<コラム>子どもの変容 ~ 本のアチコチで紹介
あとがき
資料編
○Q&A 
○ワークシート
○おすすめ本のリスト ~ 多数収録
  +「学習指導要領(読むこと)」と読書家の時間を比較した表も収録

読まれたら、これまでの読解の授業に代わるリーディング・ワークショップ=読書家の時間を実践し始めてたくなるはずです。

私たちが編著者自身なので、割引販売のお知らせをします。(本を書くことが目的ではなく、読書家の時間を普及することが目的ですから。そうなると、書いたことは手段!?
購入冊数が1冊~4冊の場合は、定価の8掛+送料で、
5
冊以上の場合は、定価の8掛(送料無料)で出版社から直接お送りすることができます。

本体価格は2000円ですので、消費税込みの価格は2160円となり、その2割引ですから、
1冊が1728円です。
送料は、1冊が350円、2冊と3冊が460円、4冊が610円(、5冊以上は無料)です。
2割引(=432円)の価格がそれぞれの送料を上回るので、アマゾン等で買われる場合よりは安くなります。これは、編著者のみができる特権です!(届くまでの時間も、アマゾンより早いと思います。公式の発売は、まだ少し先ですが、17日から発送できると出版社から連絡がありました。
※ お申し込みの際は、次の情報をお忘れなくお願いします。そのまま出版社に転送しますので。①名前、②住所、③電話番号と、④ご希望の本のタイトル+冊数を、以下のアドレスまでお知らせください。振込み用紙は、本と一緒に届きます。

プロジェクト・ワークショップ(メール=pro.workshop@gmail.com


★ 『読書家の時間』の姉妹編の『作家の時間』(本体1900円+税)と『リーディング・ワークショップ』(本体2200円+税)や、プロジェクト・ワークショップのメンバーが関わっているその他の本(以下のリスト参照)をまだお持ちでない方は、これを機会にぜひそろえてください。
私たち経由ですと、いずれの本も2割引で、送料は、上記の冊数がそのまま適用されます。

『ライティング・ワークショップ』(本体1700円+税)~『作家の時間』を実践する際の虎の巻でした。
『読む力はこうしてつける』(本体1900円+税) ~ 読書家の時間のミニ・レッスンをするときの参考になります。最近では、算数や書くときにも有効なことがわかっています。
『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』(本体2000円+税) ~ 読書家の時間で使えるだけでなく、ブッククラブが広範に活用できることが、そしてその驚くような価値がわかります。
『考える力はこうしてつける』(1900円+税) ~ 読書家の時間と作家の時間をほぼ毎日行っているクラスの様子がわかります。
『ペアレント・プロジェクト』(1900円+税) ~ 読書家の時間と作家の時間を保護者対象に実践した記録です。PTAが活性化するだけでなく、子どもたちの学びも飛躍的に改善するでしょう。さらには、教員研修や大学での講座に応用するヒントも満載です。

2014年4月11日金曜日

3つのクラスの年度はじめの読み聞かせ



 読書家の時間(RW)にとっても、作家の時間(WW)にとっても、読み聞かせはとても大事な位置を占めています。(欧米では、算数、理科、社会科の時間ですら、読み聞かせが大事だと言われているぐらいです!!)
 読むことと書くことを大切にしている3つのクラスで、最初にした読み聞かせを紹介します。

●1年生(広木)
<1日目>『わたしとなかよし』ナンシー・カールソン作、なかがわちひろ訳
自分のことを大切におもってもらいたいなあというこちらの思いと、文が短く絵が面白い(ブタが出てくる)ので選びました。
「えー!」と声をあげ、びっくりしながら聞いていましたが「わたしはいつも、わたしといっしょ」という感覚をつかんでほしいので、繰り返し読んでいこうと思います。

<2日目>『クレリア えだのうえでおきたできごと』マイケル・グレイニエツ絵と文、ほそのあやこ訳
クレリアがとても優しく、可愛いので。また、最後に消えてしまったのは、どうしてか、いろいろ予想することができるので。子ども達は何年生でも楽しんで聞いてくれます。
1年生は、「たずねムシ」のポスターのところで、大うけし、何度も「もう一度読んでー」と繰り返しました。


●4年生(冨田)
最初は緊張して登校している子も多いので、とにかくみんなで笑えてリラックスできるような作品を選ぶようにしています。

○「いつもちこくのおとこのこ ジョンパトリックノーマンマクヘネシー」ジョン・バーニンガム作、たにかわ しゅんたろう訳
先生の登場する場面をオーバーに表現するとみんな大笑いしました。
先を予想できる展開に安心感もあります。
けれど、最後だけはまったく予想できない展開にみんなが驚いて終わります。

○「ものぐさトミー」ペーン・デュボア作、松岡 享子訳
これは少し長いですが、自分の鉄板です。
自分が昔トミーと呼ばれていたという紹介も少しします。
何もかも電気で動く家に住むトミーの朝はすべてが全自動です。
この時期子どもたちは生活を立て直そうとがんばっているので、みんなが羨ましがります。
でも停電が起きてしまい…本当に笑えます。

○「999ひきのきょうだいのおひっこし」木村 研/文、村上 康成/絵
たくさんのカエルたちがコミカルに動き出す作品です。
へびを引っ張ってきたりトンビにさらわれたり、ドタバタ劇でみんなが楽しめます。
理科でオタマジャクシの観察がしたいので、だれか捕まえてきてねと伝えたり、うちの娘はここで反応するなどの話を交えて楽しみます

○「じごくのそうべえ」田島 征彦/作
声色を変えて子どもたちに読むともう教室が大笑いです。
いろいろな地獄に連れて行かれても、いろいろな技を駆使してぜんぜん苦しくない登場人物たちの余裕と、鬼たちの必死さが笑えます。シリーズがあります。


●6年生(都丸)
○『だから?』ウィリアム・ビー 、たなかなおと訳
 『どうして?』リンジー・キャンプ、トニー・ロス(絵)、小山 尚子訳
 この2冊は、6年生が楽しめると思ったことと、「共通点と相違点を見つける」「結末を予想する読み方」などの読み方を学ぶ機会になると考えたので選びました。

○『変わり者 ピッポ』トレイシー・E・ファーン、ポー エストラーダ (イラスト), 片岡しのぶ (翻訳)
 実在の人物についての絵本であること、既成概念を越える発想の大切さを感じたこと、作者の取材力に感心したことなどが選んだ理由です。

○『としょかんのよる』ローレンツ・パウリ、カトリーン シェーラー (イラスト), 若松 宣子 (翻訳)
 楽しい本の世界への入り口になると考えました。

○『クジラの跳躍』たむらしげる
 「質問を考える」「イメージを思い描く」などの読み方を学べるのでは、と考えました。

2014年4月4日金曜日

「読書家の時間」の年間計画の作り方

 新年度、担当学年が決まったら、20分〜30分ほどで「読書家の時間」の年間計画を作ります。

 従来通りの国語の授業を考えると、年度が始まったときにはすでに各教科の年間計画はできあがっています。多くの場合、教科書の単元配列通りの計画になっているのではないでしょうか。4月時点での教師の考えの中心は、「1年間をかけてどんな読み手を育てるか」というよりは、「最初の単元の授業をどうするか」ということにあるような気がします。このままでは、単元をどうこなすかが最優先事項になってしまい、子どもたちが夢中で本を読んだり、文章を書いたりするために「何を」「どう教えるか」ということは後回しになりがちです。
 
 年間計画を立てる際に大切にしたいのは、学び手である子どもたちが読んだり書いたりすることを楽しみ、夢中で取り組めるような授業を考えることです。私は年度当初の段階では、教師にとっても、子どもたちにとっても「こなさなければならない」授業ではなく、「学ぶこと・教えることが楽しい」授業―理想の授業を行うための、「理想の計画」を立てることに重点を置きたいと思います。

 したがって、教科書の単元配列や、担当学年が決定したときにはすでに完成している年間計画は後で確認することにして、「1年後に子どもたちにどんな読み手になってほしいのか」「自分は子どもたちに何を学んでほしいか」を明確にしていきます。自分が思いつくままに書き出したことをもとに、年間のユニット★の配列を考えます。
 ここでのポイントは最初から欲ばり過ぎずに「ざっくり作る」ことです。
大まかな見通しさえもつことができれば、後からいくらでも修正可能なので、
どんなに時間をかけても1時間以内で終わるようにします。細かい部分は、月単位、週単位で見直していくというように気楽に考えるようにします。

★ ユニットは、単元と似ており、「括り」を意味しています。単元がどちらかというと一つの教材を中心に考えられることが多いのに対して、ユニットは目的、読み方の方法、ジャンル、作家、あるいはRWを成功させるために必要なことなどで括られます。

4
最初の時間の読み書かせ
自分に合う本を選ぶ
学校でも家でも根気よくたくさん読む

5
フィクションを読む
友達と読む ペア読書
読んで考えたことを友達と話し合う

6
詩を読む
ミニ・ブッククラブ(詩や絵本、短編でのブッククラブ)

7
ブッククラブ(全員で同じ本を読む)
ブックプロジェクトの計画を立てる

8
ブックプロジェクト(自分のテーマを決めて読む)

9
ノンフィクションを読む

10
本を紹介する。
自分が好きなジャンルを選び、お薦めの本を紹介する。

11
読んだことを生活に生かす

12
ブッククラブ(ノンフィクション)
冬休みの読書計画を立てる

1月
これまで学んだ読み方を生かして、よりよい読み手になる

2月
ブッククラブ(フィクション)

3
読書生活のまとめ 自分の成長を振り返る

 ここまでで大体20分。ユニットが概ね決まったら、「評価方法」とミニ・レッスンを考え、表に書き込んでいきます。1時間以内というルールを決めているので、できるところまで年間計画の表に書き込むようにします。1学期分のユニットとミニ・レッスンの計画ができると、授業をスムーズに進めることができます。残りの計画は、授業を進めながら付け足していくようにします。
ミニ・レッスンで使う絵本や、ブッククラブで読む本の選書候補を計画に付け足しておくとよいでしょう。このときに、教科書を手元に置き、「教科書を使ったミニ・レッスン」も考えるようにします。多くの学校で、教科書を使わずに国語の授業を行うという選択肢は考えにくいと思われます。「教科書をこなす」ではなく、「教科書を利用する」という考えをもつことができれば、「理想の年間計画」の中での教科書を使ったミニ・レッスンの可能性は大いにに広がると思います。

○教科書(国語 六 創造 光村図書)を使ったミニ・レッスンの例(6年生)
・「カレーライス」という作品で「質問を考えながら読む」のミニ・レッスン
・「カレーライス」で「自分とのつながりを考えながら読む」のミニ・レッスン
・本物の本でのブッククラブを行う前に、教科書に掲載されている詩や短い物語などでミニ・ブッククラブを行い、話し合いの方法を学ぶ。
○同じく教科書のユニットの例:
・重松清の作品を中心に、同年齢の子たちが主人公の本を読む
・星野道夫の本を中心に、ノンフィクション作品を読む
・宮沢賢治の作品を中心に、童話やファンタジーを読む


 今月末に発売される『読書家の時間』(新評論)の第9章には、年間計画の作り方が、詳しく紹介されています。ぜひご覧ください。