2015年12月4日金曜日

書けない子との接し方

 『読書家の時間』の主要メンバーだった横浜の冨田先生が最近のクラスの作家の時間のエピソードを紹介してくれました。

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今年度は2年生を担任しています。
 どうしても書けない子がやはりいます。おそらく50音がやっと書けるレベルです。例えばAくん。「きゃ・きゅ・きょ」などの拗音や「っ」をつかった促音などは、ほぼ書けません。文章を読んだ感想を書いたり、その時間の振り返りを書いたりする時間になると、視線は壁に向いてしまい、一文字も進みません。
 まずは、僕がAくんと話をして、内容を書いてあげるところから始まりました。薄く書いてあげて、それをなぞる学習です。そうすると、だいぶ集中してなぞり書きをします。また、ノートに小さな文字でAくんの書きたいことを書いてあげると、それを活かして書けるようになるので、そのようなことも日常的にしています。
 Aくんは話す方は意外と上手です。スピーチの時も、カブトムシや幼虫を20匹飼っていて、おうちでカブトムシランドを作っているような話をしました。その数に虫好きの友達から感嘆の声が上がります。Aくんは、生き物で人を引き付ける力を持っているのだと気づきました。
 6月半ばぐらいから作家の時間の「出版」を目標に、お家の方に自分の伝えたいことを伝えようと、クラスみんなで頑張りました。多くの子どもが好きなことを意気揚々と書く中、やはり、鉛筆が止まってしまうのが、Aくんでした。
 もう、とにかく、書くということに対して、体が止まるようにできているようです。これまでの学習経験や、自分の苦手なことについても、心底理解しきっているのでしょう。気持ちが乗らないようです。けれど、僕はAくんは虫関係でとても良い経験をしているということを知っていたので、虫でアプローチしていきました。
私「カブトムシはどう?」
A「もうスピーチでやった。」
 なるほど。授業参観でやったカブトムシネタは、もう2回目は使わないということですね。
私「なんの生き物が好きなの?」
A「カメ」
私「ほう、ほう。」
A「今飼っているカメ。」
私「それじゃあ、絵を書いてみて!」
といって、原稿用紙半分に大きくカメの絵を書いてもらいました。なかなか、子供らしく迫力のある絵。
私「カメってどうやって飼うの?」
A「亀の餌をあげる」
私「噛まないの?」
A「噛まないよ。甲羅をつかめば噛まないよ」
と、亀談義をして、原稿用紙に書いた亀を切り取って、画用紙に貼り付けました。そして、「字を自由に書いて、絵を見た人がもっと詳しく分かるように書いてみて」と伝えたところ、ぽつりぽつりと不器用ながら書きはじめました。
もちろん、促音「っ」など、書けていませんが、まあとりあえずOK。書き始めたことがOKです。一応出版の原稿は完成しました。



 夏休みが明けて、ファンレター交換大会を開くと、Aくんの机の上には、お家の方から、友達から、ファンレターがどっさり。あんなに大きく絵を書いた子どもはAくんぐらいしかいなかったので、インパクトがあったのでしょう。また、文字が苦手な子どもが一生懸命書いたと伝わる文章なので、お家の方も進んでファンレターを書いてくださったのかもしれません。
 Aくんも自分の書いたものにこれほどの反響があるとは、思ってもみなかったらしく、呆然としていました。友達からも、「すげえなあ」と声をかけられています。
 夏休み前の懇談会では、出版された作品にはできるだけファンレターを書いて頂きたいということを保護者会で伝えてあったので、低学年の保護者ともなると、とてもがんばってくださいました。本当にありがたい。先生の励ましよりも、友だちになったばかりの子どもの保護者からファンレターが来る方が、効果があると思います。
 うちのクラスでは、保護者からファンレターが届いた場合、ファンレターのお返事を書くというルールになっています。Aくんは途端に忙しくなりました(笑)。おそらく全部はかけてないと思いますが、不器用なりに頑張って、できるだけ多くの保護者にファンレターのお返しを書いたのではないかと思います。彼の中で何かが成長したのではないかと思います。


 次の出版は12月末かな。Aくんがどんな作品を書くか楽しみです。

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