2015年1月30日金曜日

カンファランスの新たな可能性 (その1)



先週、Let's Talk:  Managing One-on-One, Peer, and Small-Group Conferences,  by Mark Overmeyer を読みました。作家の時間の中でのカンファランスをテーマにした本です。こういう本が続々出続けているのが、アメリカのWWRWの世界です。(刺激され続けてもう16年になります!)

ご存知のように、WWRWの中でカンファランスが占めるウェートは極めて大きいです。
ミニ・レッスンでも、共有の時間でも、教師はしっかり教えますが、何といっても大半の時間はひたすら書くないし読むに設定してありますから、教師が力点を置くべきもカンファランスです。

それについて、もう一度見直し、そして新たな可能性を模索しようというのが、この本(今回の連載)です。左側の数字は、本のページ数です。

6 話すこと(=カンファランス)のメリットには、どんなものがあるか? ~ 読み手に置き換えられる??
1.生徒の書き手としての興味・関心、こだわり、歴史などが出される。
2.自分の書いていることについて降り返させる。 フィードバックは自分にも戻ってくる!! 誰の作品にも(書き手にも)影響を及ぼす。
3.書き手のコミュニティをつくるのに役立つ。教師だけでなく、クラスメイトからアドバイス、肯定・確認、サポートが得られる。
4.話し合いを通じて言葉、作家の技、言語事項等を教える。

7 でも個別カンファランスに固執する限りは、負け戦です。罪悪感をもつだけの人も?!(なかなか一人ひとりに対応できませんから!)中には、最初から踏み込めない教師も。

 もしカンファランスの目的が、書き手のことを学び、書き手をガイドし、そして自立した書き手として前進させること(to learn about and guide writers, and move writers in powerful ways)なら個別カンファランス以外の方法が考えられる。具体的には、教師と複数の生徒たちや、生徒同士のピア・カンファランス ~ RWにもそのまま当てはまる?

8 この本で紹介するのは、
     伝統的な、教師と生徒の一対一のカンファランス
     教師がリードするグループ・カンファランス
     教師がリードするクラス全体のカンファランス
     2人の子どもが行うピア・カンファランス
     複数の子どもたちが参加するレヴュー・カンファランスで批評しあう

 多様な方法を提供することで、多様なニーズに応えることができる。子どもたちが選べるようにすること、主体的に取り組めるようにすること、最終的にはよりよい書き手(自立した書き手)になるために、方法を活かせることが大切。 読みの場合も同じ?!

 なお以上の中に、教師が事前にシナリオを描く「指導案」や「活動」という発想は一切ありません。すべて、子どもたちのニーズに応じて行われます★。「指導案」や「活動」ありきの授業をしている限りは、子どもたちが教師の顔色を伺う「授業ごっこ」「学校ごっこ」が続くだけです。何とか早くこれから脱しないと、子どもたちのイキイキした学びをつくり出すことができません。


★ 英語では、これにresponsive teachingという名称があります。日本語ではありますか? おそらく概念自体(つまり、子どもたちや学生のニーズに応じて教えること)がないので、存在しないのではないでしょうか?

2015年1月23日金曜日

評価についてのメモ(その1)


 「評価」--あまりに重要なトピックのために、私には逆にアプローチしにくいと感じる時もあります。教えることの根本に関わるトピックなので、「自分のクラスにすぐに、気楽に?使える手法」という感覚になれないから、かもしれません。

 

だから逆に気になるトピックでもあります。今日は、今読んでいる本の「評価」の章から、自分のメモと自分が感じたことを、3点ほど紹介します。またいつか引き続き紹介していきたいので、今日のRWWW便りは「メモその1」です。


 

 「評価」の章を読んだのは、RWやWWの分野をリードし続けている優れた実践者、ナンシー・アトウエル(Nancie Atwell)氏の『In the Middle』の第3版です。

 余談ですが、1998年出版の第2版から2014年出版の第3版に向けて、内容の80%が新しくなったということです。第3版の第1章のタイトルが「どのように教えるのかを学ぶ」で、ここから、著者のWWやRWとの出合い、従来型との葛藤などがよく分かり、『読書家の時間』(プロジェクト・ワークショップ編、新評論、2014年)の第10章「教師の変容」を思い出します。そして、内容の80%が新しくなったというものの、原点は同じで、そこから常に実践しながらより良いものを考え続けていることを感じます。またこの教え方の原則を、書くこと(WW)から読むこと(RW)へ、そして数学や歴史といった他教科へも応用されているのを感じます。

 

 さてこの本の第8章「評価」を読みつつの、自分のメモに戻ります。

 

(1)以前、記号による評価(A~D)をつけなればいけない小学校で教えていたときのことも少し書いてあります(308311ページ)。

 

そのときのチャレンジは、評価が子どもたちに行うように言ってきたことの反映であること


→ それぞれの子どもが、読み手、書き手として設定した目標に向けてどの程度進んだのかを、A~Dの評価を決める土台にした。

 

(↑ 目標設定や自己評価の大切さ、それをどのように、よりよく教えていくのかというところは、多くの教室に共通しているのではないかと思いました。ここからは応用可能なことがありそう。。。)

 

2)どんな学校で教えるにせよ、WWで提出される一つひとつの作品に個別に成績をつけることはしない。その理由は書き手としての成長には時間がかかるし、その成長過程は多岐に渡り、一つのパターンでまっすぐに進むわけでもないから。(300ページ)

(↑ そのためには子どもが作品を書き続けることが必要。WWの「時間の確保」が、評価とも関わると思った。評価から見えてくる、「時間の確保」の大切さ。)

 

3)アトウエル氏は、現在は自分が創立した学校で教えていることもあり、評価方法は、子どもの自己評価と目標設定に対して、教師の分析と目標設定を併せたもので、記号(A,B、C等)による評価はない(308ページ)。

(↑ こうなると、このままの方法をそのまま応用できないと感じてしまいます。とはいえ、この章を読んでいると、子どもの成長にも、教師の教え方にも、そして保護者との連携にも、この評価は素晴らしく機能しているので、またいつかじっくり紹介したいです。評価は子どもと先生の共同作業であることも感じます。)

2015年1月20日火曜日

すばらしい表現と理解のコーチ


  蔭山洋介さんの『スピーチライター-言葉で世界を変える仕事-』(角川oneテーマ21,2015)がこの1月に書店に並びました。大統領や総理大臣の演説の陰にスピーチライターがいるということは、ご存知の方も多いはず。代筆屋あるいはゴーストライターみたいなものかなと、最初は私も思っていました。が、この本を読んで、だいぶ印象が変わってしまいました。構成は次の通りです。


 はじめに 注目を浴びはじめた「影」の存在

 第1章 世界を動かすスピーチライター

第2章 スピーチライターの役割

 第3章 スピーチライターの仕事

 第4章 スピーチライティングの実際

 第5章 スピーチライターとして活動するために

 おわりに スピーチライターは世界を変えられるのか?

 くわしくは第4章に具体的なスピーチライターの仕事例が挙げられていて、それはとても臨場感があります。はっきり言って、スピーチライターはすばらしい表現と理解のコーチです。単に誰かの代わりに文章を書く仕事ではないということが、蔭山さんの本を通じてとてもよくわかるのです。依頼者の人となりや依頼者が関心を持っていることを理解しなければスピーチライティングはできません。相手の語ることに耳を傾け、しっかりと見つめ、ともに考え、ともにつくる――それがスピーチライターの仕事で一番肝心なことです。この本にはとても大事な「理解の仕方」が書かれていると思います。
 『理解するってどういうこと?』の第8章「すばらしい対話」。その306ページから307ページにかけて「表8・2 子どもたちと話すときの原則」が示されています。15項目ほどありますが、そのなかから二つだけ引いてみます。

・書き手や読み手が、より洗練された言葉やより適切な言葉を使おうと試みるしかたを説明し、モデルで示す。

・考えていることを説明するときには、明確で、かつ一貫した言葉を使う。たとえば、熱烈な学びについて話し合うときは、子どもたちの学びの魅力を説明するときも、偉大な思想家たちについて学ぶときも、「熱烈な学び」を一貫して使う。

 一つめは、言葉の使い方をモデルで示すようにすること、二つ目は「一貫した言葉」を使う重要性を間接的に教えることになります。いずれも、蔭山さんの本のなかでは、スピーチライターがクライアントと一緒にスピーチをつくるときに使われる方法と重なります(『スピーチライター』第4章を読むとよくわかります)。そして『理解するってどういうこと?』の308ページと資料Cに書かれている「考え聞かせをする」「モデルで示す」「実演してみせる」「カンファランスをする」「共有する」という、「子どもたちと話すときの原則」を授業で応用する五つの方法は、まさにスピーチライターの仕事の実際において、納得のいくスピーチを生み出していくために盛んに用いられています。「理想と希望を語る言葉」を生み出す「献身の仕事」のなかで。そこでは、スピーチをするクライアントの頭のなかにも、それをコーチする人の頭のなかにも「宝物」が生まれているはずです。スピーチライターの仕事のなかに、エリンさんが探究した「理解の種類とその成果」がいくつもあらわれます。私たちが理解するためのまたとないモデルの姿がそこには示されていると言えるのではないでしょうか。

2015年1月9日金曜日

笑えるけど笑いきれない、そしてもちろん覚えきれない




 2014年の私の読書生活の中での一つの新しい要素は、「オンラインで読めるもの」でした。

 特にTEDのプレゼンサイト(http://www.ted.com/)は今までに250ぐらい見ましたが、現時点での自分のベスト10を選んでみようとして、いくつか気づいたことを書きます。

1)ベスト10のうち4つが、学習者から教えてもらったものでした。やはりいいものに出合うためにも情報交換は絶対必要! と改めて思いました。

2)学習者が面白いと書いていたので私も見たうちの一つ、「ホアキム・デ・ポサダの、マシュマロはまだ食べちゃダメ!」★です。6分弱と短いプレゼンで、日本語字幕でも英語字幕でも見れます。しっかり笑えましたが、うまく誤魔化そうとした子どもには、笑いきれないものも残りました。
  (英語だと、Joachim de Posada, “Don’t eat the marshmallow!

3)笑えるけど笑いきれないものも残るのはよいのですが、今回、自分のベスト10を選ぼうとして、記憶に残っていない部分の多さにも驚きました。とても覚えきれません。

 上のマシュマロのプレゼンも、「楽しみを後回しにできるということも大切」とか「うまく誤魔化そうとした子ども」など、イメージや印象だけが残っている感じです。逆に言うと、教師がいかに上手にプレゼン(提示)しても、笑わせて楽しませても、聞くだけ・見るだけで記憶に残るものは多くはない、ということだと、改めて思いました。

→ WWやRWの枠組みとして、ミニ・レッスンが授業の中心でないことの価値も改めて感じました。

4)音楽など異なる分野から、「英語を教える」ということについてのアイディアを得たりと、分野を超えて得られるものも多いと思いました。特に「ベンジャミン・ザンダーの音楽と情熱」はそうでした。(これも英語の字幕でも、日本語の字幕でも見れます。)
★★(英語だと、Benjamin Zander, “The transformative power of classical music”

5)ベスト10以外に、他の人には興味があまりもてないかもしれないけど、いいと思えたプレゼンがいくつかあることに気づきました。それらは、詩や本に関するものでした。やはりRWに関わると、自分の気になる分野に詩や本が入る、当たり前のことですがそうなんだなあと思いました。

***
 
 ということで、今回は私の現時点でのTED、ベスト10を以下紹介します。いずれも日本語の字幕でも英語の字幕でも、字幕なしで見ることも可能です。よろしければ、少し時間のあいたときにどうぞ。

<視点を考えさせてくれるもの>
Colin Stokes, “How movies teach manhood”
Chimamanda Ngozi Adichie, “The danger of a single story”
Stella Young, “I’m not your inspiration, thank you very much”
Robin Nagle, “What I discovered in New York City trash”

<実用的?な示唆もあるもの>
Joachim de Posada, “Don’t eat the marshmallow!”
Michael Norton, “How to buy happiness”
Amy Cuddy, “Your body language shapes who you are”

<教育とは直接関係ないが、教えるということについても考えさせてくれたもの>
Benjamin Zander, “The transformative power of classical music”
Dan Pink, “The puzzle of motivation”
Simon Sinek, “How great leaders inspire action”

<おまけとして詩や本に関するもの>
 Marc Barnett, “Why good book is a secret door”
Sarah Kay, “If I should have a daughter …”
Billy Collins, “Everyday moments, caught in time”
Billy Collins, “Two poems about what dogs think (probably)
Chip Kidd, “Designing books is no laughing matter. OK, it is”

2015年1月2日金曜日

今年の目標は

 新年おめでとうございます。

アメリカでは、ライティング・ワークショップ(WW)が1980年代の初頭に、その成功を受けて、リーディング・ワークショップ(RW)は1980年代の後半に始まっています。
 その後、毎年のように、WWおよびRW関連の実践本が、過去30年間、毎年たくさんで続けています。おそらく教育の分野で刺激的な本が出続けている領域は他にはないと思います。私が、日本語に翻訳して紹介したいと思う本が、過去15年ぐらいは、少なくとも毎年10冊ぐらいは出続けています。(日本の教育書で、オススメの本として紹介できる本は年に1冊も出ることの方が稀ですから、この数字は異常に高いです。そういうこともあり、興味のある方はぜひ原書で読んでいただきたいです。)
 その金字塔の一つのNancie AtwellIn the Middleという本の第3版がつい最近出ました。その初版が出たのは1987年ですから、30年以上も彼女は実践し続けていることになります。そして改定をしているということは、実践を磨き続けていることを意味します。そういう人が、このWWRWの分野には数多くいます。(どういうわけか、そのほとんどは女性です。)

 日本の読み・書き(プラス聞く・話す)教育=国語教育をよくするために、やれること、やらなければならないことは山のようにあります。教科書をカバーする授業をしていては、まちがいなく多くの子どもたちは読むことも、書くことも、聞くことも、話すことも、好きになっていきませんし、それらの力をつけることもできません。(私も、その一人でした。ということは、50年前から、その悲惨な状況が続いています。)

 新年を迎えるにあたって、今年1年のあなたの読み・書き・聞く・話すの目標をぜひ設定してみませんか。目標がなければ、何も生まれませんから。今年1年間で何を実現しますか。自分のために。子どもたちのために。(下のコメント欄かpro.workshop@gmail.comにお知らせください。公言すると実現する可能性は高くなりますから。)

その際、
・自分がワクワクすることは何か?
・時間やお金などの制約を考えない時、ぜひ取り組んでみたいものは何か?
・必要性を感じると同時に、おもしろいと思えるものは何か?
・解決/改善しないといけない問題と捉えているものは何か?
等を考えてみてください。とにかく、教科書にしがみついている限りは、自分も、子どもたちも負け戦が約束されています。

 実践の場がない私の目標設定は、①今年も読み・書き(聞く・話す)の教え方に関する価値ある情報を提供していくこと★と、②『「読む力」はこうしてつける』の時にした絵本プロジェクトとはちょっと違う絵本プロジェクトを始めることです。★★


★ そのためには、必然的に紹介に値する情報を入手し続けることを意味します。私の場合は、それ(=価値のある情報)は過去30年以上、英語のものであり続けています。

★★ これについては、また詳しく紹介できたらと思っています。